「時の海 – 東北」プロジェクト実行委員会は、現代美術家・宮島達男の作品《Sea of Time – TOHOKU》を福島県富岡町に恒久設置するための新しい美術館を建設します。
「時の海 – 東北」プロジェクトは、東日本大震災をきっかけにアーティストである宮島達男が、震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、そして、これからの東北の未来を東北に生きる人々、東北に想いを寄せる人々と協働しつくるアートプロジェクトです。2015年に構想をスタートし、3,000名近くの人々との対話を重ねながら、作品を生み出してきました。
「時の海 – 東北」プロジェクト 公式サイト|https://seaoftime.org/
宮島達男は、「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、生命の永遠性を象徴するLEDの数字カウンターを用いて、生と死、命について表現し続けてきました。本プロジェクトでは、これまでにプロジェクトやワークショップに携わってきた約3,000名の人々との関わりを拓きながら作品制作を進めています。
ワークショップでは、「9」から「1」へとカウントダウンするLEDの数字の速さを、自身の希望する長さに設定します。そうしてさまざまな人の想いを乗せた3,000個のLEDが大きな水盤(浅く水を張った設備)に設置される作品を通して、静かに作品を眺めながら、大切なあの人のことや命について、想いを馳せる「時間」や「場」を生み出すことを目指しています。
宮島は、「『時の海 – 東北』プロジェクトは、東日本大震災という自然の脅威に対し、何一つ抗えなかった自分へのアーテイストとしての落とし前」だと語ります。1998年よりベネッセアートサイト直島で公開されている《Sea of Time ’98》と比較して、参加者数や作品のサイズ、制作動機も大幅に異なり、宮島の過去最大規模となる《Sea of Time – TOHOKU》は、構想当初より東北の地に恒久設置することを決めていました。(参考:直島《Sea of Time ’98》のガジェット数=125個)
この度ついに建設予定地が確定し、美術館建設を進めるにあたり、プロジェクトチームに建築家・田根剛と、グラフィックデザイナー・長嶋りかこを迎えます。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに掲げる田根剛の建築と、宮島と長年の交流があり、コンセプトや思想の仲介となって視覚情報へと翻訳することを得意とする長嶋りかこのデザインが、美術館の体験をより深く、訪れる人の記憶に残るものとなることを目指します。
【田根剛、長嶋りかこからのコメント】
▼田根剛より
「2011年5月、東日本大震災による未曾有の災害の姿を目の当たりにし、その後も何度も足を運びながら、何もできなかった想いを抱え続けてきました。昨年、避難指示解除となった富岡町にはじめて訪れた際、小学校でこどもたちが声をあげて元気に走り回る姿を目にし、彼ら彼女らがこれから生きていく未来を、いまを生きる大人がつくっていく勇気が必要だと強く心が動かされました。富岡のみなさんと共に、未来の場所を考えていく、それが「時の海 – 東北」プロジェクトだと思っています」
▼長嶋りかこより
「沢山の矛盾が詰まった問題を目の前にして、考えても考えても答えが出ず、多分きっとずっと答えは出ないのだろうと思っています。けれどその答えのなさと葛藤をそのまま提示することは、震災が起きたあの日から今もなお少しづつ形を変えながらも問題は存在していること、それすら忘却されていくかのような日々の刹那に対し、か細く仄かであっても小さな警告灯のように光る灯のようなものになるのかなと思っています」
建設予定地 福島県 富岡町について
福島第一原発、第二原発の中間地点に位置する、山々と波を感じる静謐で穏やかな時の場所
福島県富岡町は居住人口2,565人(住民登録人口数は11,338人。いずれも2024年12月1日時点)からなる、米(天のつぶ)や酒米(福乃香)、玉ねぎ(浜通りオリジナル品種「浜の輝」)が特産の小さな町です。古来から豊かな海産物で内陸や江戸幕府との交流を生み、明治時代の植樹から続く桜の名所、夜の森地区の桜祭りや麓山の火祭りといった伝統は今もなお息づいています。
富岡町は、東京電力福島第一原子力発電所、第二原子力発電所の中間に位置する三方を山に囲まれた場所にあり、東日本大震災後、かつて富岡駅から海まで続いていた居住地区は津波被害や放射能汚染の除染作業のために一度は更地になりました。しかし現在、同地区にはワインを鍵にまちづくりに取り組むワイナリーの圃場があり、スマート農業を駆使したイノベーションコースト構想の実証エリアになっていたり、移住者が徐々に増え目抜通りにはアートセンターができたりと、未来に向けた動きが町の各所に生まれています。
《Sea of Time – TOHOKU》の恒久設置場所は海が見える所を、と決めていた宮島は、場所を求めて東北の太平洋沿岸を巡るなかで、偶然の富岡町の役場の方との縁から建設予定地に出会いました。導かれるように訪れ滞在し、多くの人々と交流するなかで、宮島は人と場所に惚れ込み土地の購入を決めたと話します。
建設予定地の総面積約34,075㎡(サッカー場約5面分。取得予定分含む)の広大な土地は、入り口から海側に進むにつれて徐々に波の音が聞こえる、サウンドスケープのグラデーションが美しい場所です。ワークショップで数々の東北の方々と対話をするなかで海を悪く言う方はおらず、甚大な被害をもたらした津波が起きても、地元の方の海を愛する気持ちを強く感じます。美しい自然のなかで、実際の東北の海と《Sea of Time – TOHOKU》の静かに輝く光の波を眺め、誰かに思いを馳せながら、思い思いの時間を過ごしていただける場がつくられることをご期待ください。
作品について
22.5×40mの水盤のなかで、3,000名の想いが詰まった3,000個のLEDカウンターガジェットが光り輝きます。その様子は、静かに波打つ東北の海を想起する方もいるかもしれません。
建築について
現在、建設予定地は更地で、ここから海が見えます。《Sea of Time – TOHOKU》の作品を常設とする美術館として、自然の回復と人々が集える場所となることを目指しています。
名称 :《時の海 – 東北》美術館(仮称)
所在地 :福島県双葉郡富岡町
土地面積:34,075㎡(予定)
設計 :ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects
竣工 :2027年(予定
プロジェクトチームについて
場所の記憶と、一人ひとりの想いをかたちにする
《時の海 – 東北》美術館(仮称)のプロジェクトチームには、「場所の記憶」から建築を考える建築家・田根剛と、独創的な観察眼で繊細に表現するグラフィックデザイナー・長嶋りかこが参加します。宮島達男の作品を起点に、他者への想像力を育み、一人ひとりが命に向き合うなかで生きる活力を育む場、災禍の経験と記憶の継承の場、そして現在の福島を訪れる入り口としてふさわしい場を、驚くべき豊かなクリエイティビティをもつ2名のクリエイターとともに生み出していきます。また、「時の海 – 東北」プロジェクトに賛同する地域の方々によって発足した「《時の海 – 東北》美術館を応援する会」、そしてこれまで数々のアートプロジェクトを牽引してきたプロジェクトディレクターの嘉原妙によって、当チームは構成されています。
宮島達男(みやじま・たつお)
1957年生まれ。1988年 ヴェネツィア・ビエンナーレ新人部門に招待され、デジタル数字を用 いた作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催し、世界30カ国 250か所以上で作品を発表している。1990年ACCの招きでニューヨーク滞在。1993年 カル ティエ現代美術財団の招聘でパリ滞在。
代表作に《Mega Death》(1999 / 2016)、《Counter Void》(2003、テレビ朝日蔵)、《Sea of Time ’98》(1998)など。被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう「時の蘇生・ 柿の木プロジェクト」(1995-)も推進している。1998年 ロンドン芸術大学名誉博士授与。
2006-2016年 東北芸術工科大学副学長。2012-2016年 京都造形芸術大学副学長。2020年 芸術選奨文部科学大臣賞。 [ Photo: Lisson Gallery Milano]
田根 剛(たね・つよし)
建築家。1979年東京生まれ。ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。
主な作品に「エストニア国立博物館」、「弘前れんが倉庫美術館」、「アルサーニ・コレクション財団・美術館」、「ヴィトラ・ガーデンハウス」、「帝国ホテル 東京・新本館」(2036年完成予定)など。主な受賞に、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、フランス建築アカデミー新人賞、エストニア文化基金賞グランプリ、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。著書に『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』(TOTO 出版)。[Photo: ©Yoshiaki Tsutsui]
Atelier Tsuyoshi Tane Architects公式サイト|https://at-ta.fr/
長嶋りかこ(ながしま・りかこ)
グラフィックデザイナー。1980年生まれ。アイデンティティデザイン、サイン計画、ブックデザイン、空間構成など、グラフィックデザインを基軸としながら活動する。対象のコンセプトや思想の仲介となって視覚情報へと翻訳し、色と形にする。
これまでの仕事に「札幌国際芸術祭“都市と自然”」(2014)、「堂島ビエンナーレ」(2019)、「東北ユースオーケストラ」(2016-)、「アニッシュカプーアの崩壊概論」(2017)、「デビッドリンチ “精神的辺境の帝国” 展」(2019)、ポーラ美術館の新VI計画(2020)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「エレメントの軌跡」(2021)、「Ryuichi Sakamoto:Playing the piano 12122020」(2021)、Kvadrat「Irreversible Scale」(2024)など。著書に『色と形のずっと手前で』(村畑出版/2024)。
village® 公式サイト|https://www.rikako-nagashima.com/
《時の海 – 東北》美術館を応援する会
宮島の想いが込められた当プロジェクトに賛同し、美術館建設の実現と浜通りエリアの活性化を目指して発足した会。
発足時のメンバーは、遠藤一善(YONOMORI BAUM 代表)、遠藤秀文(一般社団法人とみおかワインドメーヌ 代表理事)、大和田剛(一般社団法人とみおかプラス 代表理事)、藤田大(株式会社鳥藤 代表取締役)、名嘉陽一郎(株式会社東北エンタープライズ 代表取締役社長)。
嘉原 妙(よしはら・たえ)
アートマネージャー/アートディレクター。
兵庫県生まれ。京都芸術大学卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科修士課程修了。NPO法人BEPPU PROJECTにてアートプロジェクトの運営に従事。その後、アーツカウンシル東京プログラムオフィサーとして芸術文化の中間支援事業に携わり、2022年4月に独立。宮島達男「時の海 – 東北」プロジェクトディレクター、女子美術大学非常勤講師、「めとてラボ」プロジェクトマネージャーとして活動。
お問い合わせ
全体に関するお問い合わせ
「時の海 – 東北」プロジェクト実行委員会(有限会社宮島達男事務所 内)
TEL:0297-21-7650 FAX:0297-20-6543
MAIL:contact@seaoftime.org
広報に関するお問い合わせ
株式会社いろいろ(市川・熊野)
MAIL:press@iroiroiroiro.jp
プレスリリースのPDFデータは、以下リンクからご覧ください。
Please see the link below for the PDF data of the press release.
Press Release(日本語版PDF):https://seaoftime.org/20250108_pressrelease_jp/
Press Release(Engrish version PDF):https://seaoftime.org/20250108_pressrelease_en/