あの時、あの人に、逢いにいく

「時の海 – 東北」プロジェクトとは

東日本大震災をきっかけに、現代美術家・宮島達男が犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、そして、これからの東北の未来を共につくることを願い、東北に生きる人々、東北に想いを寄せる人々と協働しつくりあげるアートプロジェクトです。
「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、生命の永遠性を象徴するLEDの数字カウンターを用いて、生と死、命について表現し続ける宮島達男は、本プロジェクトにおいて、3,000人の人々との関わりを拓きながら作品制作に取り組んでいます。

2015年に「時の海 – 東北」の作品構想を発表し、東北沿岸部を中心に全国各地でタイム設定ワークショップを開きながら、これまでに2,500人を超える人々の想いを受け取ってきました。そうしたさまざまな人の想いが詰まった作品を、東北の海が見える場所に恒久設置できるよう準備を進めています。

タイム設定とは

「時の海 – 東北」の3,000個の数字のLEDは、一つひとつが異なる速さでカウントしています。
9、8、7、6 …と数字が切り替わるタイミングの時間を、参加者の希望する秒数(0.2秒〜120.0秒まで)に設定し、その秒数に込めた想いを傾聴する「タイム設定」ワークショップなどを通じて、現在までに2,517名(2023年12月26日)の方にご参加いただきました。
「時の海 – 東北では、参加者を「コラボレーション・アーティスト」と位置付け、一人ひとりにアーティストの一人であるという証として「参加証明書」を発行しています。

※2023年12月25日(月)をもって、タイム設定の「ウェブから参加」の受付を終了いたしました。
残りの参加枠は、作品を恒久設置する場所のコミュニティのみなさまの参加枠として残し、3,000人の参加者を目指してまいります。

これまでの活動

2015年のリサーチから始まり、8年にわたってワークショップや展示を行ってきました。
全36回のワークショップやウェブからの参加者数は、2024年3月現在2,517名に達しています。
Concept

作品のコンセプト

この作品は、「あの時」に逢いにいくための作品となってほしいという想いが込められています。「あの時」とは、2011年3月11日です。あの日、私達の価値観・世界観は大きくゆらぎました。
亡くなられた方々への追悼の念、そして被害に遭われた人々へのお見舞いの気持ちは当然ですが、直接被害に遭わなかった人々にもさまざまな思いが去来しました。

「あの時」、感じた、絶望、無力感、虚しさ、怒り、自然への畏怖。
「あの時」、味わった、人の優しさ、絆、繋がり。
「あの時」、信じた、友情、希望、人の心、その強さ、
「あの時」、誓った、反省、決意、そして約束。
  でも、「あの時」は少しずつ忘れられていく。
  だから、この作品を通して、「あの時」、「あの人」に逢いにいく。
「あの時」の「私の心」に逢いにいく。
「あの時」の「誰かの想い」に逢いにいく。

そんな場所にしたいと考えています。
大切な誰かと再会するために。あの頃の想いに再会するために。
「時の海 – 東北」では、そんな作品を作り上げるため、被害を受けた方々に寄り添い、共感してくれる多くの方々と一緒に、作品作りを進めていけたらと思っています。

宮島達男

宮島達男(現代美術家)

1957年生まれ。1988年 ヴェネツィア・ビエンナーレ新人部門に招待され、デジタル数字を用いた作品で国際的に注目 を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催し、世界30カ国250か所以上で作品を発表している。1990年 ACCの招きでニューヨーク滞在。1993年 カルティエ現代美術財団の招きでパリ滞在。
代表作に「Mega Death」(1999 / 2016)、「Counter Void」(2003、テレビ朝日所有)、「Sea of Time ’98」(1998)など。被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう「時の蘇生・柿の木プロジェクト」(1995-)も推進している。1998年 ロンドン芸術大学名誉博士授与。2006-2016年 東北芸術工科大学副学長。2012-2016年 京都造形芸術大学副学長。2020年 芸術選奨文部科学大臣賞。

photograph: Anna Kucera