あの時、あの人に、逢いにいく

「時の海 – 東北」プロジェクトとは

東日本大震災をきっかけに、現代美術家・宮島達男が犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承、そして、これからの東北の未来を共につくることを願い、東北に生きる人々、東北に想いを寄せる人々と協働しつくりあげるアートプロジェクトです。
「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」というコンセプトに基づき、生命の永遠性を象徴するLEDの数字カウンターを用いて、生と死、命について表現し続ける宮島達男は、本プロジェクトにおいて、3,000名の人々との関わりを拓きながら作品制作に取り組んでいます。

2015年に《Sea of Time – TOHOKU》の作品構想を発表し、東北沿岸部を中心に全国各地でタイム設定ワークショップを開きながら、これまでに2,700名を超える人々の想いを受け取ってきました。そうしたさまざまな人の想いが詰まった作品を、東北の海が見える場所に恒久設置できるよう準備を進めています。

タイム設定とは

《Sea of Time – TOHOKU》の3,000個の数字のLEDは、一つひとつが異なる速さでカウントしています。
9、8、7、6 …と数字が切り替わるタイミングの時間を、参加者の希望する秒数(0.2秒〜120.0秒まで)に設定し、その秒数に込めた想いを傾聴する「タイム設定」ワークショップを通じて、現在までに2,779名(2025年2月28日)の方にご参加いただきました。
「時の海 – 東北」プロジェクトでは、参加者を「コラボレーション・アーティスト」と位置付け、一人ひとりにアーティストの一人であるという証として「参加証明書」を発行しています。

※2023年12月25日(月)をもって、タイム設定の「ウェブから参加」の受付を終了いたしました。
残りの参加枠は、作品を恒久設置する場所のコミュニティのみなさまの参加枠として残し、3,000名の参加者を目指してまいります。

作品《Sea of Time – TOHOKU》を恒久設置する美術館について

美術館の建設予定地は総面積約36,744㎡(サッカー場約5面分)の広大な土地で、入り口から海側に進むにつれて徐々に波の音が聞こえるサウンドスケープのグラデーションが美しい場所です。
建築家・田根剛とグラフィックデザイナー・長嶋りかこの参加により、美術館の体験がより深く、訪れる人の記憶に残るものとなることを目指します。

名称  :《時の海 – 東北》美術館(仮称)
所在地 :福島県双葉郡富岡町
土地面積:36,744㎡(予定)
設計  :ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects
竣工  :2027年(予定)
Project Team

プロジェクトチームについて

場所の記憶と、
一人ひとりの想いをかたちにする

「場所の記憶」から建築を考える建築家・田根剛と、独創的な観察眼で繊細に表現するグラフィックデザイナー・長嶋りかこが参加し、
宮島達男の作品を起点に、他者への想像力を育み、災禍の経験と記憶の継承、そして現在の福島を訪れる入り口としてふさわしい場を共に生み出していきます。
また、「時の海 – 東北」プロジェクトに賛同する地域の方々によって発足した「《時の海 – 東北》美術館を応援する会」、
そしてこれまで数々のアートプロジェクトを牽引してきたプロジェクトディレクターの嘉原妙によって当チームは構成されています。

宮島達男 (現代美術家)
1957年生まれ。1988年 ヴェネツィア・ビエンナーレ新人部門に招待され、デジタル数字を用 いた作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催し、世界30カ国 250か所以上で作品を発表している。1990年ACCの招きでニューヨーク滞在。1993年 カル ティエ現代美術財団の招聘でパリ滞在。
代表作に《Mega Death》(1999 / 2016)、《Counter Void》(2003、テレビ朝日蔵)、《Sea of Time ’98》(1998)など。被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう「時の蘇生・ 柿の木プロジェクト」(1995-)も推進している。1998年 ロンドン芸術大学名誉博士授与。
2006-2016年 東北芸術工科大学副学長。2012-2016年 京都造形芸術大学副学長。2020年 芸術選奨文部科学大臣賞。

Photo: Lisson Gallery Milano

田根 剛(建築家)
1979年東京生まれ。ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。
主な作品に「エストニア国立博物館」、「弘前れんが倉庫美術館」、「アルサーニ・コレクション財団・美術館」、「ヴィトラ・ガーデンハウス」、「帝国ホテル 東京・新本館」(2036年完成予定)など。主な受賞に、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、フランス建築アカデミー新人賞、エストニア文化基金賞グランプリ、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。著書に『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』(TOTO 出版)。
Atelier Tsuyoshi Tane Architects公式サイト|https://at-ta.fr/

Photo: ©Yoshiaki Tsutsui

長嶋りかこ (グラフィックデザイナー)
1980年生まれ。アイデンティティデザイン、サイン計画、ブックデザイン、空間構成など、グラフィックデザインを基軸としながら活動する。対象のコンセプトや思想の仲介となって視覚情報へと翻訳し、色と形にする。
これまでの仕事に「札幌国際芸術祭“都市と自然”」(2014)、「堂島ビエンナーレ」(2019)、「東北ユースオーケストラ」(2016-)、「アニッシュカプーアの崩壊概論」(2017)、「デビッドリンチ “精神的辺境の帝国” 展」(2019)、ポーラ美術館の新VI計画(2020)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「エレメントの軌跡」(2021)、「Ryuichi Sakamoto:Playing the piano 12122020」(2021)、Kvadrat「Irreversible Scale」(2024)など。著書に『色と形のずっと手前で』(村畑出版/2024)。
village®  公式サイト|https://www.rikako-nagashima.com/


《時の海 – 東北》美術館を応援する会
宮島の想いが込められた当プロジェクトに賛同し、美術館建設の実現と浜通りエリアの活性化を目指して発足した会。
発足時のメンバーは、遠藤一善(YONOMORI BAUM 代表)、遠藤秀文(一般社団法人とみおかワインドメーヌ 代表理事)、大和田剛(一般社団法人とみおかプラス 代表理事)、藤田大(株式会社鳥藤 代表取締役)、名嘉陽一郎(株式会社東北エンタープライズ 代表取締役社長)。


嘉原 妙 (アートマネージャー/アートディレクター)
1985年兵庫県生まれ。京都造形芸術大学卒業。大阪市立大学大学院創造都市研究科(都市政策学)修士課程修了。在学中より、企業メセナ協議会インターン、現代アートを中心に展覧会や美術鑑賞教育プログラム、アートプロジェクトの企画運営に携わる。2010年秋よりNPO法人BEPPU PROJECTにて、地域をフィールドに様々なアートプロジェクトの運営に従事。主な事業に、国東半島アートプロジェクト(2012年・2013年)、国東半島芸術祭(2014年)にて美術・パフォーマンスの作品制作・進行管理や、地元企業や市民と協働したツアープログラムの開発などを担当。
2015年4月〜2022年3月まで、アーツカウンシル東京 プログラムオフィサーとして、東京アートポイント計画事業、人材育成事業「Tokyo Art Research Lab」、Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)(2015年〜2020年)に従事。2022年4月より、宮島達男「時の海 – 東北」プロジェクトディレクター、女子美術大学・女子美術大学短期大学部 非常勤講師、「めとてラボ」プロジェクトマネージャーとして活動。

Photo: ©Yoshiaki Tsutsui
Achievements

これまでの活動

2015年のリサーチから始まり、10年にわたってワークショップや展示を行ってきました。
全44回のワークショップやウェブからの参加者数は、2025年2月28日現在2,779名に達しています。
Concept

作品のコンセプト

この作品は、「あの時」に逢いにいくための作品となってほしいという想いが込められています。「あの時」とは、2011年3月11日です。あの日、私達の価値観・世界観は大きくゆらぎました。
亡くなられた方々への追悼の念、そして被害に遭われた人々へのお見舞いの気持ちは当然ですが、直接被害に遭わなかった人々にもさまざまな思いが去来しました。

「あの時」、感じた、絶望、無力感、虚しさ、怒り、自然への畏怖。
「あの時」、味わった、人の優しさ、絆、繋がり。
「あの時」、信じた、友情、希望、人の心、その強さ、
「あの時」、誓った、反省、決意、そして約束。
  でも、「あの時」は少しずつ忘れられていく。
  だから、この作品を通して、「あの時」、「あの人」に逢いにいく。
「あの時」の「私の心」に逢いにいく。
「あの時」の「誰かの想い」に逢いにいく。

そんな場所にしたいと考えています。
大切な誰かと再会するために。あの頃の想いに再会するために。
「時の海 – 東北」では、そんな作品を作り上げるため、被害を受けた方々に寄り添い、共感してくれる多くの方々と一緒に、作品作りを進めていけたらと思っています。

宮島達男