「時の海 東北 美術館」の建築について

  • Photos: ©ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects

美術館建設予定地は、福島県富岡町の海が望む高台にあります。敷地面積36,744㎡(サッカーコート約5面分)の広大な土地には、山と海が出会う豊かな自然環境が広がり、予定地の入り口から海側に進むにつれて徐々に波の音が聞こえる、サウンドスケープのグラデーションが美しい場所です。この場所は、東京電力福島第一原子力発電所と第二原子力発電所のあいだに位置しています。そうした場所において、本美術館はこの土地に刻まれた記憶や歴史と向き合いながら、未来へと開かれた新たな文化の場をつくる試みでもあります。

美術館の設計を手がけるのは、場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに掲げる建築家の田根剛(ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects)。大地にそっと抱かれるような円環状の建築は、周囲の地形と静かに呼応しながら自然と一体となり、沈黙、音、そしてアートが響き合う場を生み出します。そこでは、人々が水平線を見つめながら作品と向き合い、生命、時間、記憶、そして未来について静かに思索を深めることができることでしょう。

ここは、東北に生きる人々、東北に想いを寄せる人々がいつでも立ち返ることのできる場所であり、福島や東北のさまざまな経験や記憶と再びつながるための場所です。

「時の海 東北 美術館」は、世代を超えた対話と新たな希望が育まれる「生きた文化の拠点」となることを目指しています。

建築概要

名称
時の海 東北 美術館
所在地
福島県双葉郡富岡町
土地面積
36,744㎡
設計
ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects
竣工
2029年(予定)

「時の海 東北 美術館」の
ロゴマークについて

美術館のヴィジュアル・アイデンティティ(VI)計画を手がけるのは、コンセプトや思想の仲介となって視覚情報へと翻訳することを得意とするグラフィックデザイナーの長嶋りかこ(village®)。
「時の海 東北 美術館」のロゴマークは、これから立ち現れる作品と美術館の建築空間、そしてその先に広がる福島の海と空から着想を得ています。そして、異なる価値観を持つ人々と共に在ること、共につくること。そうしたさまざまな思想を受け止めて対話を促し続けていくという、「時の海 東北 美術館」が目指す姿が体現されています。
建築のサイン計画やウェブデザイン、冊子など、今後制作するさまざまな媒体も同様の考え方でデザインを展開していく予定です。

ロゴマークコンセプト

3.11の犠牲者への鎮魂の想いと、震災の記憶の継承、これからの未来をともに作ることを願った「時の海 東北 美術館」は想いも意見も背景も立場も違う、異なる人々の心が出会う場所でもある。
震災を経験した人/しなかった人、大切な人や家を喪失した人/しなかった人、福島の状況を知る人/知らない人、原発反対の人/賛成の人、ここに暮らす人/暮らしていない人など、様々な意見や状況があり、このような二種の間にはたくさんのグラデーションがあり、複雑な景色が広がる。
多様に異なる人々が同じ海を見ながらそれぞれに想いをめぐらせる場所としてのロゴは、ゴシック体/明朝体、日本語/英語、と異なるもの同士を同じ大きさで並列した。
それにより双方の文字の間に見えてくる空白の直線は空と海を繋ぐ水平線のようでもある。
異なるもの同士が海とともにここにあり、水平線のように双方を繋ぎ、滲むような場所になることを願う。

グラフィックデザイナー 長嶋りかこ

プロフィール

田根 剛

建築家

Photo: ©Yoshiaki Tsutsui

建築家。1979年東京生まれ。ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architectsを設立、フランス・パリを拠点に活動。場所の記憶から建築をつくる「Archaeology of the Future」をコンセプトに、現在ヨーロッパと日本を中心に世界各地で多数のプロジェクトが進行中。

主な作品に「エストニア国立博物館」、「弘前れんが倉庫美術館」、「アルサーニ・コレクション財団・美術館」、「ヴィトラ・ガーデンハウス」、「帝国ホテル 東京・新本館」(2036年完成予定)など。主な受賞に、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ、フランス建築アカデミー新人賞、エストニア文化基金賞グランプリ、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数受賞。著書に『TSUYOSHI TANE Archaeology of the Future』(TOTO 出版)。

Atelier Tsuyoshi Tane Architects公式サイト|https://at-ta.fr/


ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects マニフェスト

Archaeology of the Future


まだ誰も見たことのない、経験したこともない、想像すらしたことのない、そんな建築をつくりたいと思っている。でもそれは全く新しい未来型の建築とは違う、場所の古来と繋がる未来の建築、そんな途方もないことを考えています。

そのために私たちは、考古学者のように時間を過去に向かって遡り、場所の記憶を掘り起こすことから始めます。それは発見のプロセスであり、そこには自分たちが知らないもの、忘れ去ってしまったもの、または近代化やグローバル化によって今日の世界から消えてしまったものに遭遇したり、それらを発見する驚きがあるのです。場所には記憶があり、その記憶を掘り起こして、未来に繋ぐことが建築には可能だと思っています。

いま私は、過去から未来へと継承する建築を考えています。それを古来より繋がる未来の建築、すなわち「Archaeology of the Future(未来の考古学)」と呼んでいます。

  • エストニア国立博物館(2016)photo: Takuji Shimmura / image courtesy of DGT.
  • 弘前れんが倉庫美術館(2020)photo: Daici Ano
  • Vitra - Tane Garden House(2023)photo : Julien Lanoo Courtesy of ATTA and Vitra
  • 帝国ホテル 東京 新本館(2036年竣工予定)©ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects

長嶋りかこ

グラフィックデザイナー

グラフィックデザイナー。1980年生まれ。2003年武蔵野美術大学資格伝達デザイン学科卒業後、2013年に自身のデザイン会社である株式会社villageを設立し、アイデンティティデザイン、サイン計画、ブックデザイン、空間構成など、グラフィックデザインを基軸としながら活動する。対象のコンセプトや思想の仲介となって視覚情報へと翻訳し、色と形にする。またデザインにおいて環境負荷を減らすマテリアルのセレクトや工夫を盛り込み、デザインがもたらす環境破壊に対して自覚的に活動する。
これまでの仕事に「札幌国際芸術祭“都市と自然”」(2014)、「堂島ビエンナーレ」(2019)、「東北ユースオーケストラ」(2016-)、「アニッシュカプーアの崩壊概論」(2017)、「デビッドリンチ “精神的辺境の帝国” 展」(2019)、ポーラ美術館の新VI計画(2020)、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「エレメントの軌跡」(2021)、「Ryuichi Sakamoto:Playing the piano 12122020」(2021)、Kvadrat「Irreversible Scale」(2024)など。著書に『色と形のずっと手前で』(村畑出版/2024)。
village®  公式サイト|https://www.rikako-nagashima.com/

  • デヴィッドリンチ 精神的辺境の帝国展(2019)グラフィックデザインとインスタレーション
  • ポーラ美術館VI計画(2020)ロゴデザインと美術館ツール等のデザイン
  • ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館「エレメントの軌跡」(2021)サイン計画とブックデザイン
  • Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 12122020(2021)ジャケットデザイン
  • Kvadrat [Irreversible Scale}(2024)プロダクトデザイン
  • 東北ユースオーケストラ(2016~)ロゴデザインとパンフレット等のグラフィックデザイン