作品を常設する美術館建設プロジェクトがついにスタート! 建築家、グラフィックデザイナー、応援団も集った、東京記者発表レポート

作品を常設する美術館建設プロジェクトがついにスタート! 建築家、グラフィックデザイナー、応援団も集った、東京記者発表レポート

「時の海 - 東北」プロジェクトは、デジタルカウンターを使った作品で知られる現代美術家・宮島達男が、東日本大震災の犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願い、東北に生きる人々、そして東北に想いを寄せる人々と共につくりあげるアートプロジェクトです。

3,000名の人々がワークショップを通して関わり、彼らの想いが詰まった3,000個のLEDカウンターガジェットが22.5×40mの水盤のなかで光り輝く作品《Sea of Time - TOHOKU》。この作品を福島県富岡町に恒久設置するための新しい美術館を建設することが決定し、2025年2月3日、東京都六本木のヒルズカフェ/スペースにて記者発表を開催しました。当記事では、102名(うち富岡町からの参加者32名)の方々にご参加いただいた当日の模様をお届けします。

文=原口さとみ(「時の海 - 東北」プロジェクト広報)
写真=西塚笑子(「時の海 - 東北」プロジェクトスタッフ)

プレゼンテーション

司会は、過去にタイム設定ワークショップにも参加してくださったフリーアナウンサーの佐藤綾乃さん。「時の海 – 東北」のコラボレーション・アーティストでもある佐藤さんによるあたたかな進行のもと、前半のプレゼンテーションがスタートしました。

なお会場には、美術館建設予定地の富岡町より山本育男町長、宮川大志副町長にもご参加いただきました。

「この美術館は、施設の機能にとどまらない、新しい場所」

プロジェクトディレクターの嘉原妙

1人目のプレゼンターは、「時の海 - 東北」プロジェクトディレクターの嘉原妙。宮島が当時副学長を務めていた京都芸術大学(旧 京都造形芸術大学)を卒業し、国東半島芸術祭で宮島の作品の恒久設置プロジェクトを担当するなど、かねてより縁もあり、当プロジェクトディレクターに就任しています。

嘉原からは、ワークショップの参加者総数は2,744名(1月31日時点)に到達しているというプロジェクトの現在地や、東京電力福島第一原子力発電所事故後の富岡町の経緯や現状、そして美術館建設予定地について映像を添えながら説明がありました(※映像は近日オンラインで公開予定)。

そして、予定地の土地取得が完了し、いよいよ美術館建設に向けて本格始動となること、そのための20億円を目標とする資金調達に挑戦することも公表。資金調達は、クラウドファンディング等ではなく、作品制作同様に「さまざまな方々と協働する仕組み」を計画中で、広くパートナーを募ることを発信しました。

最後に、建設予定の美術館は、施設としての機能にとどまらず、「時の海 - 東北」を軸とした、まちのアートセンターのような側面や、コミュニティの拠点となるような展開を想定しており、その在り方も含めて今後地域の方とも対話を重ねながら進めていくことへの期待を述べました。

「知識から希望は生まれません。リアルな現場、そして想像力から希望が生まれます」

現代美術家の宮島達男

次のプレゼンターは、現代美術家の宮島達男。作品に使用されているLEDカウンターは生命の永遠性を象徴していること、生と死、命について表現し続けている長年の作家活動の紹介ののち、「時の海 - 東北」プロジェクトを始めた背景を語りました。

「3.11」当時、東北芸術工科大学の副学長だった宮島は、大学での活動のほか個人でもボランティア活動や募金活動を実施する一方、徐々に東京や現場の外では風化していく現実に危機感が募ったこと。そして、「アートは世界を変える」と普段話していながら、震災直後の復旧のさなか「アーティストとして1mmも社会を動かせなかったことが腹立たしかった」と語り、「時の海 - 東北」は当時の自分への落とし前としてのプロジェクトでもあると言います。

2015年の構想以降、「時の海 - 東北」のワークショップや展示などの活動をつづけながら、数年に渡り青森から茨城まで沿岸部の土地を探し求めるなか、富岡町の役場の方に偶然紹介いただいた海の見える丘はまさに理想の土地でした。

ドローンで撮影した土地の上空写真(写真=岩波友紀)

しかし、この土地が東京電力福島第一原子力発電所と第二原子力発電所の中間に位置するという特色をもつことに、当時、宮島はわだかまりが拭えなかったそう。そんな気持ちを抱えながらも、福島浜通りの人々との交流を通して、「東北の現在」を肌身に感じたと言います。

原発事故によって全町避難を余儀なくされ、まるで時間が止まったような“ゼロベース”の場所で、新たな挑戦をしようと起業した人、帰還した人、移住した人、そして2019年に参加した「PinS Project(Professionals in School)」で関わった富岡町立小学校でのこどもたち―さまざまな人々が悩みながらも前進している姿を見て感じた「現実に暮らしている人と進まずして、何がアートなのか」という気づき。
宮島は、当初自分が抱いていた土地へのイメージは“机上の空論”でしかなかったと言い、「知識から希望は生まれません。リアルな現場、リアルな暮らし、そして想像力から希望が生まれます。富岡町のこの場所こそが、『時の海 - 東北』にとっての最上の場所」と語りました。

「ここで育っていく彼らの未来の場所をつくれない大人になりたくない」

建築家の田根剛さん(ATTA – Atelier Tsuyoshi Tane Architects)

最後のプレゼンターは、建築家の田根剛さん。「場所の記憶」から建築をつくる田根さんの視点から、予定地や富岡町をどう捉えているか、どんなアプローチで建築に取り組んでいるかといった話がありました。

富岡町というまちは10年という人間が不在となった空白の時間をもち、ようやく人々が戻り始めた場所。これからの未来をどうつくっていくかを考えるために、建設予定の場所に深く眠る記憶を掘り下げるところから始めたと言います。

海と山の間にぽっかりと開いたようなこの場所は、山が開墾され畑となり、下水道処理場となり、震災による土砂崩れによって機能不全になり、埋め立てて戻して更地になっていたということ。江戸時代には、東北と江戸をつなぐ道筋としてどう発展してきたのか。他にも地質学的な場所の歴史、浜通りという文化圏における、当時ここに暮らしていた人々の形跡など、さまざまな角度から考古学的に場所の記憶を辿ったそうです。

そんな田根さんも、プロジェクトに関わる前は「震災も原発事故も被災した福島という場所で、建築や美術に何ができるのか?」という、わからないことに対する不安や恐怖のようなものがあったと話します。しかし、地域の方との交流や小学校でこどもたちが大声で走り回っているところを見て、「ここで育っていく彼らの未来の場所をつくれない大人になりたくない」という思いが生まれ、この場所で取り組む決意に至ったと言います。

建築模型。左下の崖面から海辺が広がる。

美術館の建築は、屋根が全体の建物を覆い、内部に設置された巨大な作品とその先に見える海に繋がるような構成です。作品と共に、場そのものが自然と時間が変わっていく建築となるように、そしてその自然と対峙する人間の佇まいや作品とのさまざまな向き合い方を支えながら、富岡のまちの人と、ここを訪れる人たちが未来へと向かっていける場所になってほしいと語ります。

そして、毎年3.11の日に人が集い、思いを馳せたり、託したり、ひとつの拠点になってほしいという願いを述べました。

プロジェクトメンバーの声

会の後半は、プロジェクトディレクターの嘉原の進行のもと、「プロジェクトメンバーの声」をそれぞれ聞く場に。

美術館のグラフィックデザインを担当する長嶋りかこさんと、建設コンサルタント会社を営みながら富岡町でワイン造りを手掛ける遠藤秀文さんも壇上に迎え、富岡町に美術館がつくられることへの想いや期待をそれぞれ述べました。

グラフィックデザイナーの長嶋りかこさん(village®)

プロジェクトへの参加にあたり、10年ぶりに福島を訪れたという長嶋さんは、こう語ります。

「初めての訪問では『自分に何ができるのか?』という疑問や自分の存在の小ささを心に抱えながら呆然として眺めていました。10年ぶりの訪問では、当時から大きく変化したところとそのままなところの両極端を目の当たりにして、翻って自分はどうか? 同じ時間のなかで、デザイナーとしてもひとりの人間としてもどう過ごしてきたのか? と自分に問いました。東京在住の自分が今後あの場所にどう関わっていくか、正直なところ今もまだわからなくて、でもこのわからなさをどう形にしていけるかを考えています。ひとつ言えるのは、関われてうれしいということ。過去の暮らしを振り返ってみれば福島と無関係でいられる人はいないように、私自身もそうであるにも関わらず、都市の生活のなかで忘却の流れに抗うことができていない自分に不甲斐なさを感じています。遠くにいても思いを馳せ続け、自分に問い、考え続けたいというのは間違いなくあるから、このプロジェクトに関わることができて嬉しいです」

株式会社ふたば 代表取締役社長、一般社団法人とみおかワインドメーヌ 代表理事、そしてこの度発足した「《時の海 – 東北》美術館を応援する会」の呼びかけ人の一人でもある遠藤秀文さん

そして、応援する会の発足メンバーでもある遠藤さんは、とみおかワインと「時の海 - 東北」プロジェクトの共通項に「海」「数」「関わり」があると話します。

遠藤さんは、震災の半年前に建てたばかりの家が津波に流された経験がありながら、幼い頃から親しんできた海は自分にとって大いなる存在であると話し、ぶどう畑を開墾するときも太平洋の見える丘を選んだそう。また、「時の海 - 東北」が3,000名(3,000個のLEDカウンター)という数を大事にしているのと同様、ぶどう畑の苗数も16,000という数にこだわり、それは震災前の富岡町の住民数だと話します。今も帰還率が6〜7%という現状のなか、かつてそれだけの数の人々が暮らしていたということを意識して、今度どんなまちをつくるといいのか。まちづくりの礎を築きたいという思いで、苗木は今も目標数を目指して植え続けているそうです。

とみおかワインは、町民10人が避難所から集い始まった活動で、年々各地から多くのボランティアの方が関わり、なかには活動を続けるうちに移住を決めた方もいると言います。そうした人との関わりを大切に、ワインを通じてみんなで自分たちの手で住みやすいまちをつくっていきたいと話し、「美術館が完成したら、浜通りの『点』が増えることになる。点が増えれば線が増え、面となる。その面をどんどん広げていきたい」と語りました。

最後に、進行の嘉原からの「どんな美術館になるといいか。どうつくっていくか?」という問いには、遠藤さんと田根さんからコメントがありました。

「地震、津波と原発事故という複合災害の被災地は世界に前例がない。この教科書のない場所で、どう生きて、ゼロからまちをつくるかという難しく価値ある問いスタートの場所になるのでは。前向きな未来を想像できる場になったらうれしいです」(遠藤さん)

「建築には、建設という人の力を使う作業が必ずあります。機械も使いますが、今回は『人の手』が関わるプロセスをつくりたい。寺社仏閣の建立や修繕において、古来から『普請(ふしん)』という考えがあります。力のある人は材を運び組み立て、そうでない人は彼らの食を支え、こどもたちも石を拾ったり土を固めたり。あまねくさまざまな人が建築に関わるというもので、今回もその概念を引き継いで、作品同様にみんなで協働できるポイントをつくる予定です」(田根さん)

富岡町から応援団も参加

富岡町から駆けつけてくださったみなさんとの集合写真

当記者発表には、富岡町から大勢の「応援団」のみなさんが駆けつけてくださいました。会の最後の交流会で振る舞った、富岡町の特産品の造り手の方。「時の海 - 東北」富岡町オフィスで活動する地元のワーカーの方やそのこどもなど。以前ワークショップに参加してくださった地域の方。挙げればきりがないくらい、本当にさまざまな形でプロジェクトに縁のあるみなさんにお越しいただき、会場は一般的な記者発表とは一味違うあたたかな時間が流れていました。

現場を感じる会場の様子

会場は予定地から離れた東京で行いましたが、少しでも現場の手触りが伝わってほしいという思いから、写真家・岩波友紀さんによる予定地の写真を大判でプリントし、会場に展示しました。

写真=岩波友紀

写真=岩波友紀

写真=岩波友紀

また、写真の手前には建築模型を配置し、来場者の方々はそのダイナミックな建築や土地の個性をじっくり眺めていました。

宮島の「リアルな現場と想像力から希望が生まれる」という言葉が表すように、写真や模型を通して現場を感じ、美術館が建設されたあかつきにはぜひ現地にお越しいただければ幸いです。

SPECIAL THANKS

会場

ヒルズカフェ/スペース、森ビル株式会社

展示写真

岩波友紀

建築模型

ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects

映像

西野正将

配布資料

パンフレット・ブックレットデザイン:西山里佳(marutt株式会社)
英語翻訳:Sam Holden

飲食提供

  • とみおかワイン シャルドネ 2023(提供:一般社団法人 とみおかワインドメーヌ)
  • 富岡魂(提供:一般社団法人 とみおかプラス)
  • Yonomori Baum(提供:BAUM HOUSE YONOMORI)
  • 草加せんべい(提供:一般社団法人 富岡町観光協会)

広報・PR

株式会社いろいろ

今回の発表と合わせて、「時の海 - 東北」プロジェクトでは、noteで新たなインタビュー企画「『時の海 - 東北』の人々に出会う 」をスタートしました。

「時の海 - 東北」の人々に出会う

当企画は、これまでに「タイム設定」*に参加してくださった方の元を訪れ、改めて、ご自身が決めた秒数や想い、そして、現在の暮らしや活動についてお話を伺うインタビューシリーズです。

記事を通して、一人ひとりの声に、想いに、耳を傾けていただけたら幸いです。

そして、当プロジェクトへの支援やサポートに関心をお持ちいただけましたら、ぜひお気軽にお声掛けください。

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